殺されるという恐怖、
左右逃げ道がなく完全に追詰められたという恐ろしさ、
だったと思う。
That feeling that, I imagine, you feel when you’re cornered and you feel you’re about to be killed
2014年3月22日 Anabella Abadi y Bárbara Lira
今日午後3時27分、またニコラス・マドゥロ大統領のラジオとテレビのカデナ放送が始まった。カラカスの大学大通りAvenida Universidadに集まった政府支持の学生集会からだ。彼はその約60分の演説の大半をタチラ州UNEFA大学の攻撃について非難していた。
そのとおり、許しがたい事件だ。だか彼が公立大学を守れと繰り返す間、それじゃあ(私立)UCAB大学に対する攻撃はどうなのだ?と疑問に思わずにはいられなかった。
そして私と同じように他の人たちも、ツイッターを通じて不思議に思っていた。「@robertodeniz:マドゥロはUNEFA大学で起きたことは本当に下劣な行為と言うけど、UCV(ベネズエラ国立中央大学)の学生達を殴りつけてたことについては一言も触れないんだ。」
そこで私が2014年3月19日に起きた中央大学建築学部の学生たちに対する攻撃の記録をここに書いて残しておく。
19日水曜日午後8時1分、友人からメッセージが届いた。(WhatsAppだったから時間は正確だ。)
「コレクティボは平和の人々だと言う人達へ。ハエ一匹殺せない弟が建築学部で彼等に襲撃され暴行を加えられた。」
訳注:コレクティボスColectivosとはオートバイに乗った武装した民間人のギャングのこと。一連の抗議運動では民兵として政府と連携し、抗議運動を行う一般人や学生に対する弾圧を行っている。詳しくはFAQを参照。
友人の弟はそれについて何も話をしたくないと言った。その気持ちはわかる。だが他の学生の一人はそのことについて「いつでも話せる」とメールをくれ、他の学生も「話す心づもりはできてる。何でもきいて」というメールをくれた。
彼らの安全のため本名を伏せて、とりあえずディエゴとレネと呼ぶことにする。
21歳のディエゴはその日、講演と映画討論会、そのあと学生集会があるので中央大学の建築学部へ行った。もうすぐ23歳になるレネは学生集会に出るため午後1時に大学へ着いた。積極的なストをするのか、それとも全面ストに突入するか、または勉強を続けるか、これからどうするかを決めるための学生集会だった。
数時間の集会のあと午後3時半頃、ディエゴとレネを含む数十人の建築部の学生は昼食を食べに出かけた。教室に戻ってみると彼らはボリバリアーナ大学前の高速道路向けの高い壁に立てかけておいた「安全」「自由」「正義」「尊敬」と書いたプラカードが地面に倒されており、身分不明の8人の男達(ディエゴに言わせると侵入者)がそこにいた。
塔には ”チャベス” という字のみが浮かんでいた。
レネの話では、学生達は教室へ通じる道を全部封じることにした。
「非常階段、稼動していた二台のエレベーター、教室のある塔へ通じる中央の階段のところに、ありったけの椅子や机を積み上げて侵入者達が出れないようにした。」
ディエゴは言う。
「実際何をしたらいいか分らなかったし、どうやら奴等は武器を持っていたようだった。」
学期について話し合うつもりで集まった学生は、今は自己の身を守ることだけを考えていた。
プラカードを取り換えた侵入者たちは自分たちも中央大学の学生だと名乗り、その閉じ込められた塔から出るために交渉を持ちかけてきた。そうしているうちに、ディエゴや学生達は「もう暗くなりかけて大学は閑散としていたし、さらに時間が経過するのは全員にとってさらに危険」だったので、侵入者たちを一晩塔に閉じ込めておいた方が良いかどうか相談した。
大学の学生会のメンバーと政府支持の学生達による数時間による交渉の末、ディエゴとレネ、そして他の学生たちは侵入者を塔から出してやることにした。
3月19日午後6時15分、まさにその時、その場所から、少なくとも30分は続く恐怖が始まった。
「侵入者を出すことに決めて一分も経たないうちに、突然、建物のドアの所に白いTシャツで顔を覆い、手には銃を持った裸の男が『コレクティボスが到着』と言って突然現れた。」
とレネは話す。ディエゴによれば、
「その覆面男が催涙ガス弾を投げ入れて、そこから全てが始まった」
のだった。
その男は一人ではなかった。他にも彼の背後に沢山いた。
学生達のうち数人はカフェテリアの方へ逃げ走り、他の学生は学部の入り口に積んであった備品の一部である“防犯用スタンド”の下にもぐりこんだ。レネやディエゴや他の20人は校内のより遠くの方へ走った。教室に逃げ込もうとしたが戸は開かない。廊下の突き当たりまで来ると、そこの非常口は南京錠で鍵がかかっていた。
レネが言うには、女学生の一人が非常口の外にオートバイに乗ったギャング集団がいると叫んだので、学生達は椅子で南京錠を壊すのを諦めた。学生達は追いつめられ、罠にかけられたことに気付いた。逃げ込んだ廊下は左右に出口があったが、どちらも同じ所につながっていた。全ての道は覆面男たちのもとに通じていた。
コレクティボスが塔にいた侵入者を解放している間に“一瞬の静寂”があった。危険はない、今だと思ってディエゴと9人の学生が100m先の建物の出口へ走り出した。しかしその途端、どこからか「催涙弾飛んできて、すぐ近くで破裂して息ができなくなった」とディエゴは言う。仕方なく10人は他の学生達のいる“追いつめられたコーナー”へ走って戻らざるをえなかった。
レネは学部の建物の端で動かずにいた。彼が催涙弾の爆発音を聞いて外を覗いてみると、右にも左にも、棒とパイプで武装した覆面の男達がいた。
「その時の恐怖、追いつめられたって感じ想像つくかな・・・俺は“これで一巻の終わりだ”って思った。奴等は手にピストルの握っていたから、皆殺しにされると思ったよ。」
恐怖に怯えたレネや仲間は何とかお互いを守るため重なりあって“人の山の盾”を作ろうとした。ディエゴは長い間使われていない古い家具の下に何とか隠れることができた。
コレクティボスの間を抜けて建物から逃げようとした学生達は殴られてひどい目にあった。“学生の山の盾”の前の方にいたレネや学生たちは、殴られている間、棒やパイプから何とかして顔を守ろうと必死だった。
写真は顔を靴に踏まれた跡が残る一学生の写真だ。他に頭を割られ血だらけになったいる写真もあった。古い机の下に隠れていたディエゴはいつ見つかるかという恐怖で動けなくなっていたが全てを見て、聞いていた。
侵略者は学生たちが殴打されている間、侵入者たちは
「コレクティボスが来たぞ!」
「こんなので政府を倒せると思ってんのか?」
「チャベスは生きている」
「おめえらはファシストだ!だからやっつけてやるんだ」
と叫んでいた。
その中の一人は “esta mierda es de la izquierda(この糞は左翼のだ)”と落書きをしていた。
机の下にまだ隠れていたディエゴは殴打される女学生の恐ろしい悲鳴にショック状態でいた。
“人の山の盾”にいたレネは二人の女学生を抱いて守っていた。催涙弾で目は腫れ、息も出来ず泣いてた。これがいつまで続くのか検討もつかなかった。「これから何が起きるのか」「誰か助けてくれるのか」と思い続けていた。
ディエゴは、侵入者の何人かは女で、布で覆っていない一人の女の顔をぬすみ見ることが出来た。その女達のうちの一人が
「行くよ!行くよ!」
と叫んだ時、レネはこれでやっと終わったと思った。が、そうではなかったのだ。
武装グループは女子学生のみを解放し、男子学生は解放されなかった。
「バカなことをするんじゃないぞ」
と言われたあと、レネと彼のクラスメートたちに服を脱ぎパンツ1枚になるように言った。それから道を開けると、走れと言い、逃げ回るところを棒やパイプで頭や足を殴ろうとした。レネはズボンと靴を掴み逃げ出した。レネは言う。
「捕まりそうになったけど、俺は何とか逃げ切ることが出来たんだ。」
でもみんなが彼のようにラッキーだったわけではない。ちょうどドアに辿り着こうかというとき、侵入者の一人が彼の行く手を塞ごうとした。だがレネは彼もかわした。
レネはそこで、ガスマスクをつけた消防士が廊下に2人座ってただ見ているのに気付いた。消防士達は、外に出て空気を吸おうとする彼を見るだけで助けようともせず
「早く行け、早く、まだオートバイに乗った奴等がうろついているから」
とだけ言うのを聞いた時、レネの憤りは頂点に達した。
レネと逃げだせた何人かの仲間は学部から半キロの地下鉄の駅にたどり着いてやっと生きた心地がした。その時6時45分で大学は人影もなく、もうあたりは暗くなっていた。こんなことがあった後でもレネは家には帰らなかった。傷ついた仲間を病院へ運ぶのを手伝い、それから別の友人を診療所に連れて行くために残った。
ディエゴにとってその辛い体験はさらに長かった。殴打が終わったあと半時間して、やっと隠れていたところから這い出た。あたりに服や靴やバックが散乱しているのを見て、仲間たちが服を脱がされたこと知った。外に出てみると学部の扉の前に数人の消防士がいたが、彼に対して何も言わなかったし近づこうともしなかった。ディエゴはただ走った。
外で出会った仲間の女学生を抱きしめてから駐車場に戻ってみると、彼の車の運転席側の窓ガラスが粉々に壊されていた。殆ど前が見えぬほどだったが、何とか運転して、ほとんど全裸の状態で近くの病院に運ばれた仲間に服を持っていくことが出来た。
後ほどレネは振り返ってこうまとめる。
「恐ろしさ、恐怖。誰かに殺されそうになって完全に追詰められてしまったときが、あんな感じだと思う。右を見ても左を見ても逃げられないっていう恐怖。文字通り、俺は窮地に追いつめられてた。」
ディエゴはこう言う。
「びっくりした・・・一度も、一度たりともこんなこと体験したことなかったから。何か人生のそれ以前とそれ以後では人間が変わってしまうような体験だった。大学の親友はずっと泣きじゃくってた。彼女は殴られた一人じゃなかったのにだよ。」
しかしディエゴは警察へ訴えるつもりはない。
「この国じゃそんなことしたって誰も聞きはしないよ。正義なんて無いんだから。」