なぜベネズエラの学生はデモをするのか

ベネズエラでの学生デモについて、そもそもどうしてこんなことが起きているのかが分からない人は多いと思います。そこでベネズエラについて全く知らない人でも、現状が感覚的に理解できるように、ポイントを解説します。
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ベネズエラは富裕層エリートvs貧困層では分からない

ベネズエラも南米の他の国と同じく、ごく少数の超金持ちエリートと、大多数の貧困層がいます。
そのためこのエリートvs貧困層、搾取する人vs搾取される人という構図を元に、ベネズエラに注目する人が圧倒的に多いです。
意識はしていなくても、ベネズエラについて「社会主義革命」や「反米」、「チャベスの貧困救済政策」、「貧富の格差」などの言葉とセットで聞いたことのある人は多いと思います。エル・システマの成功物語や、高層ビルの中に作られたスラム街の写真を見た人も多いのではないでしょうか。

これらの視点がそのまま間違っているとは言いません。ですが、今ベネズエラで起きていることは、一部の富裕層vs貧困層という見方では理解できません。その間の3割〜4割の中流層の存在が無視されているからです。

重要なのは、現在見られる一連の抗議運動の主役が、1%に満たない少数の金持ちエリートでも6割近くいる貧しい人でもなく、残りの4割弱の中産階級の人という点です。
そして、日本では一億総中流と言われるように中産階級は多数派ですが、ベネズエラでは違います。

ベネズエラの中流とは

日本でもベネズエラでも、中流というと高校や大学を卒業して仕事を持ち、住む場所があって、洗濯機やテレビ、携帯、ネット環境、自家用車などがあって、働いたお金で子どもの食事や学費も出せて、たまに外食ができて、月末にはお金が少しは残っているような、贅沢は無理でもとにかく衣食住+αが満足にできる層のことです。
小さな会社やお店を経営してる人、会社員、飲食店の店員、学校の先生や医師や看護師など職種は様々でしょう。普通に生活のために働いてい生きている人達です。

例えば、日本のポップ文化やアニメなどに興味があるベネズエラ人や、海外で目にしたり知り合う可能性のあるベネズエラ人のほとんどが中流層に当たると思います。そして、日本では当たり前の中流の暮らしができる人は、この国では4割程度で大多数というわけではありません。

ベネズエラの貧困層はどんなかといえば、昔の映画でブラジルを描いたものですが、『シティ・オブ・ゴッド』みたいな感じを想像して下さい。
もちろん、貧困層でも映画のような最底辺から、もう少し上まで幅広くいるので一概にはいえないのですが。また、バリオと呼ばれる貧困街に住んでいる人でも、それなりに成功して自分は貧困層よりも中流層だと感じている人もいます。
とにかく、貧困層とは最低限の衣食住が得られない層と考えればいいでしょう。

普通の人にとっての社会主義政権

チャベスが政権につくまでは、べネズエラの中流階級の人には、世界の中流の人と同様に、頑張って働けば良い暮らしができ、頑張って勉強すればより良い仕事につける可能性がありました。

確かに、発展途上国によくある汚職や政治の不正、圧倒的な貧富の差という不平等の問題は昔からありました。とはいえ、それとは別に中流層には頑張ればより良い生活をつかめるチャンスがあったのです。
ところが、チャベスが大統領になりベネズエラが社会主義の国になったことで、その中流層の可能性はどんどん狭くなっていきました。

marcha3今では、ベネズエラの中流の人は頑張って勉強しても沢山働いても生活がよくなる見通しはありません。政府と何らかのコネクションがない場合は生活の向上は望めないのです。民間セクターは壊滅状態で就職先は減る一方です。政府関係の仕事でも汚職に関わらない限り生活は向上しません。

よく「それでもベネズエラの中流の人は最貧困層よりマシだろう。もっと過酷な状況に置かれている人が沢山いる」という人がいます。
確かにその通りですが、中流層の人は、金持ちではなく貯金なども限られているので、もし仕事がなくなれば飢え、家族を養えなくなり、病気になれば死んでしまいます。

貧困と暴力と社会主義の理想

また「それでもベネズエラの貧困層の生活は良くなったじゃないか」と言う人がいます。
でもそれは政府が冷蔵庫やテレビをバラまいたりして最悪がちょっとマシになっただけで、必ずしも貧困層が貧困から抜け出したことを意味しません。

ちなみにベネズエラは石油産出国で、国の経済のほとんどを石油に依存しています。石油マネーは空から降ってくるお金で、税金など国民に依存するお金ではありません。だから本来ならば、中産階級にしわ寄せが行かなくとも貧困層は救えるはずなのです。

ベネズエラの教育省の大臣は「政府は貧困をなくす努力はするが、貧困層が中産階級になることは認めない」と言いました。
貧しい人も政府からおこぼれを貰うことは認められても、頑張ってより良い安定した生活を求めることは許されないのです。

ベネズエラ人の友人にバリオと呼ばれる貧困層の出身の人が何人かいます。彼らは奨学金を貰って大学に入り、頑張って勉強して、実力で社会の底辺から這い上がった人達です。ようやくチャンスを掴んだのに、現政府のせいで仕事を失い、居場所も失った彼らの怒りと絶望は容易に想像がつきます。

ベネズエラで起きているデモの直接のきっかけは女子大生のレイプ未遂事件でしたが、犯罪率の高さと国がその対策を何もしないことに人々は長年腹を立てていました。中産階級も貧困層もこの犯罪率の高さに対して怒っているのは、頑張って働いて得たものを理不尽に奪われても、政府がその暴力から守ってくれないからです。

失うのはお金や物だけではありません。日本で友達が犯罪に巻き込まれて亡くなったという人はどれくらいいるでしょうか?ベネズエラ人の多くが犯罪によって家族や友人を失っています。そしてその比率は貧しいほど高くなるのです。

自分の国で居場所を失うこと

とにかく、この中流層、つまり学校で勉強し、毎日働き、質素でも安定した生活を普通に送りたいと思っている層の未来が完全に閉ざされているのがベネズエラの現状です。

完全に閉ざされているというのは、ベネズエラ政府はこの中流層を国民の敵だと明言しているからです。

政府が自分の国の中産階級の市民をはっきりと敵視していること。これがベネズエラが他の南米諸国と決定的に違う点です。ブラジルなども貧富の差が激しく、今もワールドカップに向けてデモが起きていますが、中流層は問題を起こす厄介な国民であって、ブラジル国民の敵とは見なされていないと思います。

べネズエラ人をデモに駆り立てる原因の一つに自分の国に居場所を失った絶望感があると思います。政府と異なる意見を持ったために、突然、自分の国の敵とみなされるのです。実際、多くのデモ参加者は政府当局からの身体的暴力だけでなく言葉の暴力を受けていることが報告されています。

祖国ベネズエラで居場所を失うというのは、経済的な問題だけではありません。自分の生まれ育った国、慣れ親しんだ生活、愛着のある街、誇りに思う文化など全てを「それはお前のものじゃない、お前とは異なる考え方の他の国民のものだ。お前は国の敵だ」と政府に否定されるのですから、それはアイデンティティの問題にも関わります。辛いと思います。

特に若い学生には就職先も自立して生活を立てられる見通しもありません。彼らにとってはデモをしてもしなくても、今の政府が政権についている限り未来はないのです。

だから若者たちはデモに参加する

どっちみち未来がないなら、その苛立や怒り、絶望をどこに持っていけばいいでしょうか?

marcha1学生たちに残されている選択肢は暴れることです。暴れて、万が一にも政府が考えを変えれば、もしかしたら未来が開けるかもしれないという一縷ののぞみに賭けているのです。
学生が声を上げ暴れるのは、自分の国から文字通り自分の存在を完全に否定され、頑張りたいこと、やりたいことができないこと、そして今声を上げなければ未来永劫、自分は否定され続けることを予感しているからだと思います。

よく日本のメディアは「反米ベネズエラ」と表現しますが、現在ベネズエラで起きていることにアメリカも反米思想も関係ありません。ベネズエラ政府寄りの人はこれらのデモを「欧米の新右翼主義者の陰謀」などと言いますが、それを信じた所で、なぜこのような運動があるのかを理解する助けにはなりません。

もちろん、ベネズエラを考えるには中産階級の問題だけでなく、ベネズエラの歴史や、石油政策、金融政策、麻薬の密売と軍隊の関係、キューバとの関係、チャベスの神格化などいろいろあります。
でもなぜ学生がデモするのか?という時、まずはこの中産階級の存在を理解しないと全体像は見えてきません。

ベネズエラ内の反政府野党を支持する人の間でも、学生運動や急進的な反政府活動は国内の対立を煽り問題を悪化させると否定的な考えがあります。私はその批判は妥当だと思います。
ただそのような非難をすんなり納得してしまう前に、背後にあるベネズエラの中流層の人々、普通の人達の憤りや不安、絶望に対して想像力を働かせることはとても重要だと思います。

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