産経のベネズエラ経済に関する記事が哀しすぎる(追記あり)

先日、産経ニュースにニューヨーク支局黒沢潤記者によるベネズエラ経済に関する記事が出ていたが、あまりにひどい内容なのでコメントする。

反米左派マドゥロ政権下の南米べネズエラで、豊富な石油収入があるにも関わらず食料品などのモノ不足が深刻化している。「21世紀の社会主義」実現を掲げ、価格統制している廉価な商品を隣国コロンビアで密売する例が多発しているのに加え、チャベス前政権時代から農業分野への投資を怠ってきたツケが回ってきた形だ。

黒沢記者は全くベネズエラ経済についてご存知ないようだ。

ベネズエラの物不足の根本的な原因は価格統制と外貨の固定レートである。ベネズエラ政府の見解は、問題は他にある(農業不足でも密輸でも違法な露天商でもいい)とするものだ。しかし、このような見方は、経済の専門家や投資家の間では一般的ではない(と思っていたので、この記事には驚いた)。

ちなみに公式のレート(1$=6.3BsF)と実際の闇市場で取引されるドルの差はどのくらいかというと、これくらい。

dolartoday

常識をくつがえすような数字。さらにインフレ率は月に4%近い。

ここにあるSICAD2というのは、政府の認めている平行レート。これは一定の条件のもとで外貨が得られる複雑な仕組みの一つ。もともと導入された目的は違法レートの撲滅だが、この導入がさらなる混乱を招いているのは明らか。

ベネズエラは何もかも輸入に頼っていて(国内生産するより輸入した方が安くつく)、農業に限らず、国内工業に投資するインセンティブが失われてる。いわゆるオランダ病だ。だから、豊富な石油収入があるにも関わらず物不足が深刻化しているわけではない。むしろ、豊富な石油収入があるから混乱しているのだ。

「モノ不足の背景には、価格統制された低価格の品々を犯罪組織が国内各地で大量に購入した後、利益を得ようと隣国コロンビアの北部地帯などで密売していることがある」というのも、完全な間違い。価格統制が物不足の原因で、密輸はその派生現象でしかない。逆に言えば、たとえ政府が完全に密輸を食い止められることができたとしても、物不足はなくならない

現在ベネズエラで極端に不足しているのは、価格統制されている日用品や食料品だ。ウィスキーやキャビアなどの価格統制されていない高価な輸入品は手に入るという点も忘れてはならないだろう。

一方、農業分野に積極的に投資してこなかったことも、モノ不足の一因と指摘する声は多い。

ベネズエラは反米左派オルテガ政権下の中米ニカラグアや、カリブ海に浮かぶジャマイカなどに石油を輸出する際、代金のかわりに農産物を受け取ることもある。

農業に力を入れていれば物不足はなかったはずとか、石器時代の経済ですか?シンガポールは食料の9割以上を輸入してても食料不足になってないでしょ?日本だってエビを8割以上輸入してるけど、スーパーからエビが消えてなくなるなんてことはない。そういう問題じゃないのよ。

たとえ農業分野に積極的に投資したって、販売価格が原価より低価格に強制的に設定されたら、誰も農業なんてやらなくなるのは当然だ。莫大な損失を出しながらも生産を続ける人たちは、いつか将来状況が変わるはずと信じて、その時のために市場を手放したくない大企業みたいな経済的な体力がある所だけ。たとえベネズエラほどの石油収入があって、農業を国営化しても、原価より低価格で物を作り続けることなんて不可能だ。特に、今は石油価格も下がっていて、国の収入も下がっているのだから、完全に無理ゲーね。

あと、このニカラグアやジャマイカから石油の代わりに農産物を受け取るというのはPETROCARIBEのことだと思うが、そもそもペトロカリベは石油が親ベネズエラ国に安価で流れていく一方向的な協定で、交換でもたらされる農産物はおまけのようなものだ。にも関わらず、ペトロカリベを通じてベネズエラに入ってくる農産物をベネズエラにおける食料不足と結びつけるのは、さすがに無理があると思う。

最大の謎は、どうしてこれほどまでに原因は明らかなのに、ベネズエラ政府は価格統制をやめないのかという点。支持率もダダ下がりなのに、イデオロギーのせいで頑なになってるの?単にバカなの?あるいは、内部の権力闘争による陰謀なの?専門家の間で白熱した議論がなされているけれど、答えは誰にもわからない。実際、もしマドゥロが低価格設定をやめれば、スーパーに商品が戻り、おそらく支持率も回復するはずで、政権はもう少し安定すると思うのだが・・・

曲がりなりにも大手新聞のニューヨークに詰めている記者が、素人レベルの経済認識なのを見ると、日本のメディアのレベルが知れるようで悲しい。

まぁ、アメリカにいる記者さんにとってはベネズエラのことになんてどうでもいいのだろうけど。


(追記)
ベネズエラの政治風刺ブログEl Chigüire Bipolarは、石油輸出機構OPECが原産を見送り、石油価格が下落していることを受けて、11月27日に「OPECはベネズエラでは石油産業をやめて農業に従事するべきだと決定した」という風刺記事(内容は嘘の記事ですべて冗談)を発表した。

もしかしたら産経の記事もお笑いネタ記事だったのかもしれませんね。そうだとしたら、ネタにマジツッコミして私もおとなげなかったです。

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産経のベネズエラ経済に関する記事が哀しすぎる(追記あり)」への2件のフィードバック

  1. 初めまして。
    記者の方のおっしゃることはそこまでおかしいのでしょうか。
    ブログ主様は「ベネズエラの食料不足の仕組み」で、3ドルでは原価割れするので、農家が生産を止め、食糧不足の深刻化に拍車を掛けるというように述べられております。これを読んで、疑問に感じましたのは、何故、ベネズエラ政府は農作物を農家から政府が高値で買い上げて、それを安く売ることによって、国内農家の保護を図らないのかということです。
    かつて、日本は食糧管理制度で米などの価格や生産量を管理し、国内農家の保護を図っていました。今でも、輸入を規制し、その甲斐あってか、米の自給率は100%を保っています。
    ヨーロッパでもフランスなどは、農家に対して、多額の農業補助金を与えて、保護を図っています。
    シンガポールが食糧不足に陥っていないとおっしゃいますが、それは、現在、世界の食糧事情が安定しているからであって、世界的食糧危機が起きれば、直ぐに深刻な食糧不足に陥るでしょう。生活用水ですら、マレーシアのお情けでどうにかなっている現状です。
    だからこそ、日本政府は食糧自給率の維持に尽くしていますし、中国でも最近は食糧やら水やらの確保に必死のようです。
    なぜ、ベネズエラ政府には食糧自給率の維持や農家の保護という発想が存在しないのでしょうか?

    いいね

    • >IRONさん
      こんにちは。
      産経の記事ですが、2014年の時点で2016年以降の経済危機はあらかた予想されていましたし(実際は予想よりひどかったですが)、当時すでに今さら農業うんぬん言われても問題はそこじゃない感がかなりありました。もしこの記事が15年前に書かれたのなら、別だったと思いますが。

      >何故、ベネズエラ政府は農作物を農家から政府が高値で買い上げて、それを安く売ることによって、国内>農家の保護を図らないのか

      >ベネズエラ政府には食糧自給率の維持や農家の保護という発想が存在しないのでしょうか?

      という質問ですが、ベネズエラ政府は農家の保護にはイデオロギー的に反対でしょう。農家の保護=農家が豊かになる=農家のブルジョワ化=革命の敵 ですので。

      ちなみに、ベネズエラ政府は国民が経済的に豊かになることを望んでいない、と以前から明言しています。政府は、農業を自分たちの管理下に置きたいとは考えても、農業を発展させたいとは思っていないと思います。

      最近、パン不足からパン屋が相次いで国に没収されましたが、これも同じロジックです。生き残りをかけて、単価の高いクロワッサンなどを販売したパン屋の行いは資本主義的であり、国民の敵だとして、パン屋は没収、店主は刑務所送りです。メチャクチャですが、チャベス主義とはこういうものです。

      あと忘れてはならないのは、ベネズエラでは、国の富は国民の労働によって支えられているのではなく、地中から湧いて出てくる点です。一攫千金を狙うには、いかに石油マネーを自分の懐に入れるかが肝心です。

      たとえ農業生産が上がっても役人には大した利益がありません。でも農作物を輸入すれば、輸入に携わる役人は、歪んだ外貨交換レートを使って莫大な財をなすことができます。これが、ベネズエラ政府の政策決定に大きく影響していると思います。

      今はベネズエラは経済的にボロボロです。でも今なお石油マネーにアクセスできているごく一部の人は大儲けしています。政府が管理する範囲は増えた分、一部の人の儲けも増えています。その人たちが政策決定や関わっている限り、現状を変えるの難しい。ベネズエラ経済の歪みを是正する政策をマドゥロは幾度となく行われていまが、実現したことがないのも、それを阻止する勢力がいるからでしょう。

      ベネズエラの経済問題のネックになっているのは、他に良い方法が思いつかないのではなく、他の良い方法より、現在の最悪の方法を望む人たちが政策決定を行い、政策を管理、実行する立場にあり、さらに軍事力も抑えているという点です。

      いいね

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