ベネズエラの電子投票制度がダメな理由

ベネズエラは、世界に先駆けて電子投票制度を採用している国です。2004年、チャベスは多国籍企業で現在はイギリスに本社を置くSmartmatic社のシステムを導入しました。しかし、ベネズエラではチャベス派政党による選挙時の不正が言われており、反政府派の間では電子投票システムの評判はよくありません。

実際のところ、このベネズエラの電子投票システムとはどのようなものなのでしょうか?反政府派の一部の人々が訴えるように、本当にスマートマティック社の電子投票システムが不正選挙の原因なのでしょうか?

Caracas Chronicleの記者でマサチューセッツ工科大学出身のエンジニアであるロドリゴ・リナレスによる、投票所でのボランティア体験に基づいた目から鱗の分析を紹介します。


日曜日の18時間労働の記録

Chronicles of an eighteen-hour working Sunday
2015年3月25日 Rodrigo Linares

ロドリゴの写真

投票所の僕。写真は国営メディアのCorreo del Orinocoより。(マジです

選挙の日というのは、あなたを含め、ほとんどの人にとってただ行列に並び、投票し、家に帰って、少なくとも開票の時間までは、なんとか気を落ち着かせようする日のことだろう。

僕にとっては違う。

先の8度の選挙の時、いずれも、僕は朝5時に家を出て、夜中の1時に帰宅した。帰宅時は、お腹はペコペコ、全身くたくたで、体からは地下鉄の駅の臭いがしていた。

このことを書こうと思ったのは、キコ・トーロ *がスマートマティックについて書いた記事とそれに続くコメントの応酬がかなり神経に触ったからだ。これまでの過酷な18時間労働から導き出した結論を言えば、僕が思うに、キコは正しい。だけど正解じゃない。

*訳注)Caracas Chroniclesの創設者フランシスコ・トーロのこと。この記事でトーロはスマートマティックを擁護して、ブログの読者に論争をふっかけている。

まず一点、間違えないようにしよう。ベネズエラの選挙制度は、絶望的なまで不正操作されてる。そしてスマートマティックはかなり酷い。だけど、その「不正行為」は電子投票において起きているのではない。そして、スマートマティックが酷いのは、みんなが思っているような理由からではない。

選挙制度が不正操作されている理由は、政権政党には無制限の放送時間を持っている上に、恥ずかしげもなく政党の選挙キャンペーンのために国家の財源に手をつけているからだ。放送時間*+キャンペーン資金=得票数、これは普遍的な法則だ。さらに、野党政治家の立候補禁止弾圧を混ぜたものを加えれば、ほら、完璧に欠陥を内包したシステムの完成だ。

*訳注)リンク先の記事では、2012年の選挙でチャベスが野党候補カプリレスの8倍の選挙のための放送時間を得ていたとある。このとき、チャベスはあるだけの国家予算を使いカプリレスに辛勝した。

とはいえ、キコは次の一点においては正しい。このマシンは人々が入れた投票用紙に書いたもの以外のものを集計したことは一度たりともない。決してない。僕がこの8回の投票で立会人を務めてきたペタレの投票所でも他のミランダ州の他の田舎の地域(サンタルシアなど)でも、おかしなことは起きたことがない。それに、他の場所でも何か不信なことが起きたというような証拠は一切ない。

特に記憶に残っているのが、ある投票台でマシンがカプリレスの得票がゼロを示したときのことだ。0、ゼロ。零点。当然、それを見て不信に思ったので、僕たちは投票用紙を一枚一枚見て確認した。そして、実際にその台では誰一人としてカプリレスに投票していなかったことが判明した。そういうこともある。

ペタレでは、僕がボランティアとして働くようになって何年も経つので、そこにいるチャベス派と反政府派の両方のみんなとかなりうまくやっている。彼らのほとんどはいい人たちだ。CNE(ベネズエラの選挙管理委員会)がランダムに選んだ人は姿を見せないので、ボランティアとしての僕の仕事は、主に投票場を設置し、選挙を運営することだ。

そしてこの仕事で一番難しいのは、実は、当局の人間に午後6時ちょうどに投票所を閉鎖させることだ。投票所の責任者が上から与えられるなんらかの指示に従っていることは明らかだ。現に外に人っ子一人いないにもかかわらず、彼らは大抵、投票所になんらかの圧力がかからない限り、投票所を閉鎖しない。

投票所が閉鎖されると、どの選挙のときでも、チャベス派の群衆が投票所を開けるようドアをバンバン叩き始める。一度など、バイクに乗った人が押し入ってきて、さらにとても乱暴な人々が援軍を呼びかけ、軍に行動を起こすよう促しながら、中に入ってきたことがある。

その時までに、すでに労働時間が12時間を過ぎていることはもう言ったかな?ボランティアメンバーは、普通、午前6時前には投票所に着いている。だから、投票所をなんとか閉鎖して、全てのデータを送って、全部を箱に戻し入れたら午後10時にはなっている。そして、終わりの時間までには、誰もがくたくたになっている。だから、自分の投票台が監査の対象になることを望む者など誰もいない。

だけど、サンプルの監査は絶対にやらなければならない。だから、僕たちは台の数字を小さな紙切れに書いて、何か容れ物の中に入れ、その容れ物に「無実の手」を、通常はその地域の子供が手を突っ込み、紙切れを数枚引く。もし投票所にある投票台が偶数であればその半分が監査の対象になり、もし奇数であれば、それが半数プラス1台となる。

もし自分の数字が当たれば、一緒に自分の台を担当していた人と一緒に投票用紙を全てチェックしなくてはならない。

うめき声もあげたくなる。ここからさらに最低でも、2時間の追加作業だ。誰もこんなのやりたくない。なぜなら、問題が見つかることなんて決してないんだから!

僕が一番ムカつくのは、100%の監査を要求する人々*が選挙の日は鼻くそをほじりながらソファーに座って時間を過ごしている、ということだ。投票用紙(電子投票の引換券)の100%の監査を要求する人々は、全員が選挙の日はボランティアとして1日を過ごすべき。

*訳注)前回カプリレスがマドゥロに対して敗北した選挙で、反政府派の多くの人が不正がないかチェックするために100%の監査を要求していた。

それに、ぶっちゃけ、たとえ投票用紙の100%が数えられたところで、「イカサマティック」だと盲目的に信じる人々のうち、一体どれだけの人が結局マシンは投票を偽造しないということを受け入れるの?

こういう話をするのは、システムが完全に安全だという言うためではない。全然、安全じゃない。二重投票を本当に回避する方法はない。投票所が閉鎖された後にドアをバンバン叩いて投票しようとする人たちは?おそらく、二度目、あるいは三度目の投票なんじゃないの?自分の担当の台を数百人、投票所によってはもしかしたら数千人が通り過ぎる。その中で一人の男や女を見分けるのは、かなり、むずい。それに、前回の大統領選挙で証明されたノートは監査の対象にならないという事実も、投票プロセスのその部分を間の抜けた、使えない、ありえないくらい脆弱なものにしている。

ここでスマートマティックの話に戻るけど、@ElRui が @LuisCarlosと話しているのを見ていると、スマートマティック社が自分たちは超スゲー製品を作ったと思ってるのは明らかだ。でも、そんなことないから。奴らの製品は終わってる。それもいろんなレベルにおいて。

なにしろ、ユーザインタフェースが全く直感的でない。テクノロジーに強い僕みたいな若者にとってさえもそうなのだ。ほとんど一日中、人々にマシンの使い方を説明しなければならない。投票所にいる500人のうち、少なくとも300人にはシステムがどのように機能するのか説明する必要がある。多くの人は、邪魔くさがって説明すら聞きたがらない。彼らは投票所に入ると、誰に投票したいかを僕たちに言って、投票するように頼む。(話は変わるが、これがまた多くの人が理解できていない「投票補助」現象を知る手がかりにもなる。投票補助に対しては、ただ供給だけでなく、需要も存在するのだ)。

このようなシステムは本当に直感的で、一目瞭然であるべきだ。良いユーザインタフェースのデザインというのは、いかに説明を要さずに済むかにかかっている。その基準から見ると、この製品の悪さは常軌を逸している

僕みたいな人間がその場にいて、スマートマティックのやっかいなデザインの選択を辛抱強く投票者に説明するような恩恵にあずかることができない投票台は何百、何千にものぼるだろう。そういう場所では、一体どうしているのだろう?

でも、問題は単にユーザインターフェースが最高に終わっているだけではない。この製品の質もかなりひどい。一台のマシンが故障すると(これが、かなり頻繁に起こる)、システム全体が崩壊する。時には直すのに一日中かかるときもある。

選挙のたびに毎度起こる腹立たしい問題の一つは、このマシンが、後で投票者が投票箱に入れることになる投票用紙を発行する方法だ。マシンはまず投票用紙を吐き出して、その2秒後に、マシンが用紙を切る。そこで初めて用紙を受け取ることができる。しかし、もしマシンが用紙を切る前に投票者がその紙を引っ張ったら、マシンは動かなくなるんだよね!あの日、僕は400人以上の人に対して、「紙が完全に発行されるまでお願いだから待ってください」と言わないとダメだった。

みなさん、これこそがまずいデザインの定義ってもんじゃないですか。

他の問題?いくつかの選挙で、投票用紙が大きすぎる一方で、マシンについているボール紙のカバーは小さすぎて、誰が誰に投票しているのかが見え見えだった。MUDとGPP*が離れた角に設置されていたせいもある。中には、それを見て集計を取っていた人がいたくらいだ。おそらく、これはスマートマティックというより選挙管理委員会の責任だろうけど、そうは言ってもねぇ。

*訳注)MUDとは野党連合のこと。GPPはマドゥロ大統領の政党であるPSUV(ベネズエラ社会党)が率いるチャベス支持政党の連合のこと。

これこそが、僕がスマートマティックを憎む一番の理由だ。彼らが不正を働いているからではない。彼らの売り回っている製品のデザインが、ユーザの観点から見るとバカバカしいくらいに不味くて、起動させるための作りも粗悪だからだ。

とにかく、スマートマティックのシステムはかなりうざい。ブチ切れそうになるのは、昔やっていたような単純なSAT式のマークシートの投票用紙をスキャナーに入れて即座に集計する方が良いのは火を見るより明らかだから。あの方法は直感的だ。選択肢があり、その横に丸があって、鉛筆がある。ただ自分の好きな選択肢の横の丸を鉛筆で黒く塗りつぶして、投票用紙を投票箱に入れる。最後には、投票用紙をスキャナに投入する。

データが送信され、結果は合計される。とっても簡単。

言及しておかなければならないのは、スマートマティック社はベネズエラでの選挙を直接運営するために、数億円規模の契約を保証されている点だ。これはコネで成り立っており、公開の入札過程は踏んでいない。これには驚く人も多い。アレク・ボイドはスマートマティックが選ばれた過程には巨大な汚職事件が隠れていることを指摘している。これらは、ルイス・カルロスのインタビューでは一切触れられていないことだ。今日に至るまで、ホルヘ・ロドリゲス(選挙管理委員会委員長)と彼のチームがどのような基準でスマートマティックを選んだのかは、誰一人として知らないのだ。他にはどのような選択肢を彼らは検討していたのだろう?それともスマートマティックは自分たちの「友人」だったから選ばれたのだろうか?

つまるところ、スマートマティック社のマシンの集計機能というのは、完全に不正な機械の中の一番不正から遠い歯車なのだ。キコは間違ってはいない。だけどちょっと冷静になるべきだ。スマートマティックは終わってる。そしてその傾向はどうやっても変わるようなものではない。


訳注:ベネズエラの投票の仕組みについて

ベネズエラの投票のプロセスについては、ジェトロ・アジア経済研究所の2013年の機動研究成果報告『2012 年ベネズエラの大統領選と地方選挙:今後の展望』第2章「ベネズエラにおける選挙法・制度の変更とその政治的インパクト(1999~2012年)」に詳しい。そこで紹介されているベネズエラの投票のプロセスとは、以下のようなものである。

投票日当日は投票管理者による投票会場の設置をもって選挙プロセスが始まる*24。図1 に示されるように、投票者は馬蹄型に設置された投票テーブルにそって投票手続きをふんでいく。

  1.  身分証明書を提示し、指紋照合機(統合認証システム)で指紋をスキャンし、 機械投票システムを作動させる
  2. 投票所管理者が有権者に投票の仕方を説明する。
  3. 投票者は機械のある場所に移動し、画面の投票オプションから投票する候補者 のボタンを押し、画面上で確認後「投票する」ボタンを押して、投票(デジタ ル)が終了する。それと同時に機械から投票結果を示した投票用紙が発行され る。
  4. 投票者は、機械から発行された投票用紙を投票箱に入れる。
  5. 有権者登録簿に署名し、指紋を押捺する。
  6.  二重投票防止のための消えないインクを指につけて投票が終了する。

*24 投票会場は選管の従属機関とみなされ、選挙人登録に登録されている市民からランダムに選ばれた者が投票所管理者となる。この意味で、選挙への参加は国民の義務であり、義務を果たさない者は処罰される。

広告

コメントを残す

以下に詳細を記入するか、アイコンをクリックしてログインしてください。

WordPress.com ロゴ

WordPress.com アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Twitter 画像

Twitter アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Facebook の写真

Facebook アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

Google+ フォト

Google+ アカウントを使ってコメントしています。 ログアウト / 変更 )

%s と連携中