ジム・ルーアズなる謎の人物と政府メディアの流すデマ

当ブログが目指すのは、できるだけ公平で信頼に価するベネズエラ情報を共有することです。ですが一度、ベネズエラ政治に対する私のスタンスが非常に反政府寄り(したがって、公平とはいいがたい)という趣旨のコメントをもらったことがあります。

私の政治的な考えが反政府寄りなのはそのとおりです。だけど、ベネズエラ政府の流す情報を人々と共有する気がしないのは、私の考えが反政府寄りだからではありません。公平を期すために政府と反政府派の出す情報を並べたところで、事実などおそらく見えてこないし、公平性などそこにないのは明らかです。なぜなら、そもそもベネズエラ政府から発信されるのは、ほとんど嘘か現実を反映していないゴミ情報、つまりプロパガンダだからです。

もちろん、信頼できないからといって、政府の発信する情報を完全にシャットアウトすることは不可能ですし、さらに言えば反政府派のメディアなら信頼できるかといえば、そうでもないのが難しいところです。

とはいえ、ひとつ確かなのはベネズエラ政府の発信する情報を鵜呑みにするのはマズイということです。

今日は、ここ数週間でベネズエラのソーシャルメディアの一部で注目を集めているジム・ルーアズなる人物を紹介します。この人物に関わる一連の騒動は、ベネズエラ政府系のメディアを通じたプロパガンダがどういうものなのかを端的に表していると思います。


ジム・ルーアズって誰?

Who is Jim Luers?
2015年6月3日 Gustavo Hernandez Acevedo

こんにちは!私の名前は… (何でしょう?) 私の名前は… (誰でしょう?) 私は… ジム・ルーアズです!

この4月、 ベネズエラ国営放送VTVベネズエラの政治ゴシップを扱う低俗な週刊新聞キント・ディア紙* が、ホワイトハウス報道官のジム・ルーアズなる人物の発言を取り上げ、アメリカ合衆国がディオスダド・カベジョを捜査中であるという報道が「全く事実に反する」と話していると伝えた。

訳注* キント・ディア紙はカラカスの週刊新聞で、記事のほとんどがデマであることで広く知られている。

数日後、エル・ナシオナル紙はホワイトハウスに電話をかけ、実際にジム・ルーアズなる人物がそこで働いているのかを確かめた。ホワイトハウスの答えは?
「いいえ、ここでは働いていませんよ。」

そして今週、エル・ナシオナル紙は、さらにこのジム・ルーアズなる人物を探すため、アメリカのニューヨーク東地区の連邦検事とFBIのニューヨーク支局にも尋ねてみた。しかしまた答えは同じ。
「ジム・ルーアズという人はここにはおりません。」

興味深いことに、Caracas Chroniclesにコメントしていた読者の中に、当時、この件について言及した人がいた。 この読者は、ルーアズなる人物が、政府系メディアや他のメディアにおいて、ベネズエラに関連したニュースで何度も証言が取り上げられていることに気づいていた。笑えるのが、ジム・ルーアズの証言が取り上げられた記事では、記載された彼の職業が報道官調査員FBI捜査官や分析官などなど、それぞれ微妙に異なっているという点だ。

まさに何でも屋!

アルゼンチン人ジャーナリストのマリオ・シチュマンはタル・クアル紙にて独自調査を行った。 4月末に公表されたこの記事からも、このルーアズさんを取り巻く状況がかなり怪しいことは確実となった。しかし、この程度のことで、ベネズエラ政府メディアや ベネズエラ統一社会党PSUVの国会議員の(ちなみにジャーナリストでもある)アール・エレーラが、ルーアズの発言の引用を止めることはなかった。話は少しそれるが、ベネズエラ公共放送AVNがちょうど数週間前に出したこの報道があったからこそ、おそらくエル・ナシオナル紙もこの追跡調査の記事を出したのだろう。

ともかく、ジム・ルーアズなど存在しないことは火を見るより明らかだ。にもかかわらず、ヘゲモニー政党側はこの人物を100%信頼している。そして、この件は、政府が自分たちの言い分を国民に押し付ける今のやり方が、どこまでひどくなりうるかを示している。


<解説>

さて、この事件のポイントを挙げると次のようになります。

  1. このジム・ルーアズなる人物は、おそらく最初にインタビューを掲載したキント・ディア紙によってでっち上げられた。ただしちょっと調べればすぐにわかるほどにお粗末な嘘なので、でっち上げの理由は不明。
  2. にも関わらず、ベネズエラの国営メディアがこのデマを事実として取り上げた理由は不明。自分たちに都合の良い事実を作り上げるため?単に事実確認ミス?いずれにせよ、ひどすぎる。
  3. 悲しいのは、ベネズエラ国民の多くは、インターネット接続環境もなく、衛生放送やケーブルテレビもなく、国営テレビやラジオだけが情報源なので、こんな馬鹿げた報道でも信じてしまう可能性があること。政府を支持する人なら、政府の言うことを疑う理由もないし。
  4. この件はネタとして笑って済ませばいいだけの話かもしれない。でもベネズエラ政府メディアが国民の生活に関わる、もっと目立たないけれど重要な出来事に関しても、同じように誤情報を流していたら?そもそも政府の言うことが信じられる理由などある?

ちなみに、このブログの元記事が公開された後、存在しないはずのジム・ルーアズが一人歩きし始めます。というのも、ジム・ルーアズを名乗るツイッターアカウント@RealJimLuersが見つかり、さらにジム・ルーアズのブログまで見つかったからです。しかも、そのプロフィールは「ホワイトハウス報道官兼FBI捜査官」(笑)。@RealJimLuersのアカウントは現在凍結されていますが、すでに新しいアカウント@JimLuers44が作られています。

もちろん、ジム・ルーアズが実在しない人物なのは確かですが、ジム・ルーアズの背後にいるのは誰なのか?ブログやツイッターを見る限り、チャベス主義支持者のアメリカ人というキャラなのですが、内容的にはベネズエラ政府と政府系メディアを皮肉ったネタであり、政府関係者や政府支持者が運営しているようには見えません。

さらに、ホームページとツイッターでの発言が話題になり、この騒動は予想外の広がりを見せています。まずBuzzFeedフランス版のSlateで取り上げられ、本物のホワイトハウスのヒスパニック・メディア・ディレクターのキャサリン・バーガスとツイッターで冗談めいたやり取りがありベルギーのラジオで取り上げられ、フランスのテレビ局TF1の夕方のニュースで取り上げられ、国際公共放送PRIで取り上げられる、さらにキント・ディア紙ではジム・ルーアズの週刊コラムが始まるなど、もう何がなんだか……

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