瑣末情報の記録:中国国家開発銀行バージョン
Annals of Lede-Burial: China Development Bank Edition
2015年6月19日 Francisco Toro
今日(6月19日)のウォールストリートジャーナルに中国国家開発銀行(CDB)に関する興味をひく記事があった。中国のベネズエラに対する融資が、なんらめぼしい結果を出さないまま膨れ上がっている件についてだ*。例の、ベネズエラが中国から受けた融資(そのうち約14%は外国債)は約370億ドル(約4兆5000億円)にのぼるが、それが返済されるのかされないのかという話だ。
訳注* この記事「中国国家開発銀、ベネズエラ向け融資で痛手」はWSJ日本版で無料で読める。
ひえー。もちろんCDBは政府系銀行だから、ベネズエラが借金を払わなくても、倒産することはなく救済措置が取られるはずだけども。
ひ、ひえーっ!
とはいえ、本当に興味深いのはそこではなく、記事の下の下の方、20番目の段落(ちゃんと数えたよ!)に隠れているこの文章。
中国海関総署(通関当局)の統計によると、ベネズエラ向けの巨額の融資をよそに、中国のベネズエラ産原油輸入量は14年通年で11%減少し、15年は今のところほぼ横ばいだ。4月はベネズエラからの輸入量が日量29万6000バレルだった。
融資の実績ではなく、このことこそが、中国がベネズエラと交わした取り決めの本当の失敗を測る目安になる。なぜなら、この関係の目的は融資によって金儲けすることではなかったからだ。ベネズエラの政治体制を強化するためでもなく、こんなこと言うまでもないが、ティナコ-アナコ間に「高速鉄道」路線を敷くためでもない。
融資の目的は、オリノコベルトの重質油の開発に資金援助し、生産を拡大、中国市場に新たなエネルギー資源の供給ルートをもたらすことだった。*
訳注* 元記事にあるように、本来ならベネズエラは最低で日量33万バレルの原油を中国に輸出する約束で、2013年には新たな融資を引き出すために日量55万バレルを輸出していた。
しかし、 実際にはそんなことは起きていない。
ショッキングなのは、これほどの現金がベネズエラに流れ込んでいるにもかかわらず、ベネズエラにはオリノコベルトで新しい生産工場を稼働し、投資に見合う分の石油を生産するだけの組織力も管理能力もないことだ。2007年から、何度も繰り返し公表されているシンクルード・アップグレーダー* が稼働しそうな気配は全くない。
訳注* 合成原油(シンクルード)のアップグレーダー(改質装置)。ベネズエラの石油は重質油のため、軽質油と混ぜて売られる。この重質油を軽質油と混ぜずに特別な処理を行いアップグレードすることができる。現在ではカナダのアルバータ油田でシンクルードのアップグレードを行われているが、これは非常にお金がかかり、かつ技術的にも難しい。
さらに今、ベネズエラはロシアから石油を購入するために長期契約を結ぼうとしている。これをキュラソー島で精製することで、 マラカイボ湖の原油をオリノコベルトのべとべとの重質油と混ぜるためにキープしておくのが目的だ。
これは恥ずかしい。
くり返しになるが、融資の実績ではなくこの事実こそが、ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)の経営が穴の空いたバケツに水を注ぎ込むようなものであることを証明している。どれほど多額のプロジェクト資金を提供してもらったところで、生産が増加する見込みなどないのだ。
翻訳者メモ
ここで話題になっているオリノコベルトの開発には、日本も無関係ではありません。
2010年には日本の独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)も出資しているようですし。
カナダのオイルサンドと大きく異なり、通常の坑井での生産が可能な超重質油であり、技術的ハードルもコストも相対的に低く、今後の政策次第では、中期的に世界の原油価格に影響を与えるほどと言われています
とあります。
しかし、カナダのアルバータ油田に経験豊富なPDVSAのエンジニアがかなり流れていると聞きますし、ベネズエラの資源関連のビジネスでは汚職問題も深刻で、数億円単位でぱーっっとお金が消えてしまいます。さらにベネズエラの管理運営能力はかなりやばい。結局、技術的ハードルもコストも低いのはそう「言われている」だけであって、計画通りことを進めるのはかなり難しいのではないでしょうか。