チャベス主義を終わらせたい?だったらマドゥロを権力の座に居座らせておこう

余談を許さないベネズエラの経済危機が深まるにつれ、大統領を辞任に追い込もうという野党内の機運が高まりつつあります。今回は、そのMUD(野党連合)に向けた若手経済学者の提案を紹介します。

この記事は、カラカスクロニクルでの公開当初から大論争を巻き起こし、その容赦ない内容から、野党支持者から非難が殺到しました。倫理的(あるいは感情的)に受け入れがたいという反論の他、価格統制をやめることの影響は決してゼロではないという意見もあり、彼女の提案の是非にはなおも議論の余地があります。

ただし、彼女の指摘通り、ベネズエラ経済はそれほどのっぴきならない状態にあることは確かです。そして、デフォルトなどのも最も苦しい時期に政権をとることで、野党が槍玉に上がり、国民の支持を完全に失う可能性はかなり高いと言えるでしょう。


Want to Finish Off Chavismo? Keep Maduro in Power
2016年2月1日 Amanda Quintero

forsaken_by_jonasdero-d4dp2jq2016年のおぞましい経済状況が明らかになり、野党支持者は次の12月のガイタ*の音楽が聞こえ出す前にはマドゥロを追い出したくてうずうずしている。エンリケ・カプリレスですら**時が来たと言い始めれば、ついに限界に達したのだということはわかる。

(訳注* ガイタはベネズエラのマラカイボの音楽で、カラカスなどではクリスマス時期にガイタを聞くのが一般化している。
訳注**カプリレスはロペスの支持者など野党急進派と違い、マドゥロの即時辞任にはずっと反対の立場だった。)

私はこれは間違いだと思う。現状はひどいが、今後もっともっとひどくなるからだ。かなりひどく。野党は、これから私たちが直面することになる外的ショックの規模を、まだ本当には理解していない。この先に起きる最悪の事態の中で指揮をとるということが何を意味するのか、私たちは完全には把握していない。今年中に政権を握ろうとするということが、それを明確に示している。

ベネズエラが直面している根本的な問題は不適切に設定された価格(特に外貨の価格)だ。だからただ現実的になる(通貨を切り下げ、価格統制をやめる)ことで、あらゆる問題、そうでなくともほとんどの問題を解決できる、という考えに私たちは慣れてしまっている。これは石油が1バレル80$の頃の月並みな常識であり、当時の文脈ではそれなりに意味もあった。

今日、このような視点は危険なまでに古くて役に立たない。外的ショックは巨大だ。「適正価格にする」などでは、十分にも程遠い。

考えてもみよう。

1. 流動資産の危機は誰も予期しなかったほどに深刻

ここ18ヶ月で石油価格がどうなったかはご存知の通り。だが、完全に破産した国の主導権を握ることの意味を、本当にじっくりと考えたことがあるだろうか。

計算すると悲惨だ。2016年の第3週に、ベネズエラの原油バスケット価格は21$で取引を行っていた。これはつまり、生産量が1日当たり270万バレルとすると、75万バレル/日が国内消費に回され、30万バレル/日が中国基金*の返済金に、15万バレル/日がペトロカリベとキューバへの手当となり、私たちに残されたお金になる石油量は1日当たり150万バレルとなる。現在の価格では、石油からの総収入はひとり当たり1日1$といったところ。

(訳注* スペイン語でフォンド・チーノとも。中国からの融資のことで、これに対する支払いは石油で行われている模様。)

これが総収入。いい? ベネズエラ国営石油会社(PDVSA)の経費を差し引く前の総収入。

純利益は?ゼロに限りなく近い。

現在見えている兆候が示すのは、ハードカレンシーでの収入は対外債務の支払いに優先的に充てられそうだということだ。そして公的な為替レートはまだ調整が行われていない。バークレイズの推定では、今年の予算ではキャッシュフローは300億$の赤字を示している。バンカメは、石油価格が30$未満では資金調達ギャップは400億$に達する可能性があると強調している。

おそらく、ベネズエラがこれほどの経済的打撃を受けるのは1980年代以来だ。当時、石油価格が暴落し、国有化されたばかりの産業は、ペレス・アルフォンソ*の保護政策のために150万バレル/日を失った。<ベネズエラの元大臣でOPECを立ち上げた人物>当時のその結果として起きたのが、「黒い金曜日*」の通貨切り下げ、PDVSAおよびベネズエラ社会保険庁の年金基金の差し押さえ、将来的にはプントフィホ主義**の死だ。さらに、ベネズエラ中央銀行の研究によると、1980年から1989年の間で貧困が12%から63%に上昇した点は言及する価値があるだろう。

(訳注* 1983年2月18日、ルイス・エレラ・カンピン政権下で現在のような外貨不足に苦しんでいたベネズエラでは数十年ぶりに通貨切り下げが行われた。
訳注** 1958年、ベネズエラの主要政党である民主行動党、コペイ党、民主共和連合の代表が、大統領選挙の結果を正式に受け入れるという協定が結ばれた。これがプントフィホ協定。これにより軍事統治が続いたベネズエラで文民による民主主義が確立した。)

現在の石油価格でネズエラ財政を計算すると、大赤字も良いところだ。そして、折しも…

2. 石油価格は上がらない

先週、BPのCEOボブ・ダドリーは、世界経済フォーラムで私たちは「さらなる低価格が長期的に続く」事態に直面しているとうめくように言っていた。さらにダドリーは石油価格は今年の前半で10ドル代まで下がる可能性があると警告した。このニュースと期を同じくして、国際エネルギー機関(IEA)は月間報告の中で、どこも生産を止めない場合、世界中が「石油の中で溺れてしまう」可能性を指摘した。

そうこうするうちに、OPECの事務局長アブドラ・エル=バドリは、石油産業におけるベテランプレーヤー達は石油価格サイクルをよく知っているはずなので、それに向き合うべく備えが必要だと警告した。極め付けは、サウジアラビアが、30ドルの石油が「 理性を欠いている」とはわかっていても、自分たちは今日の市場にちゃんとポジションを獲得しており、より効率の悪い生産国こそが油井を閉めるべきなのだと発言したこと。それゆえに、ベネズエラは「減産させて、これを終わらせよう」みたいな期待にはキスしてお別れすべきなのだ。

要するに、あらゆる石油市場の大手プレーヤーは、誰も負けを認めない状況にはまり込んでいる。誰もが、いくらなら市場における過剰供給を止められるのか見つけ出そうと頑張っている。

そしてこれがほとんどの人の基本的な筋書きなので、バークレイズはベネズエラ国債に対して完全なパニック状態になり、ベネズエラについて「もう後戻りできない点ところまで来てしまった」と言っていた。つまり、こうなるとデフォルトは避けられないということだ。

3. カウディージョ支持者の社会では、大統領は悪魔か聖人のいずれか

実質的な収入がチャベス前の時代にまで下がり、「クレジットイベント」が差し迫る中で、たとえ政府がなんとか債務の支払いが行えたとしても、経済回復の見通しはなおも不透明だ。IMFの推定によると、壮大な720%のインフレ率でもって、ベネズエラのGDPが今年さらに8%低下する可能性もある。負債満期をクリアして、石油価格が安定すれば、2017年の半ばにはベネズエラ経済は回復し始めることが可能かもしれない。

ベネズエラのようなカウディージョ支持者の社会では、統計記録史上、最悪の危機的状況の責任は、それが誰であれ、その瞬間に政権を握っていた人が負わされることになるだろう。

現政府に調整の政治的コストを負わせることは、なおも最善の選択肢だといえる。なぜなら、国債保有者も一般大衆も、社会の混乱よりも、組織の安定の方を望んでいるからだ。

4. 経済緊縮は現実である

もう金はなく、痛みを伴う決断をこれ以上先送りにはできないと政府が理解していることを、彼ら独特の非論理的でぎこちないやり方で、政府は示している。パストール・マルドナドのF1後援資金の支払いが遅れ、ロムロ・ガジェゴス賞の受賞者パブロ・モントーヤに対する賞金10万ドルの支払いすら遅れ、さらにはウルグアイの農作物の輸出業者に対する支払いから国連の分担金の支払いまで遅れているのを見れば、カラカスクロニクルの読者ならすぐに分かるだろう。

だがこれらは大きく報じられるニュースでしかない。実際に影響がありそうなのはこっち。

石油相のエウロヒオ・デル・ピノが、PDVSAの債務再編を再び前倒しにしたことだ。これはつまり、期限内の支払いは行われず、後で別の見返りを得ることで債権保有者が同意せねばならない、ということを意味する。言い換えれば、テクニカル・デフォルトだ。マドゥロ大統領は国内の燃料の価格を上げるときが来たと発表した。CITGOは新たに債権を発行すると発表した。PDVSAとHess CorpのジョイントベンチャーであるHovensaは、アメリカ領ヴァージン諸島政府から、売却の許可を得た。PDVSAは、民間パートナーに輸入したナフサの代金を支払うように求めた。このナフサはオリノコベルトの超重質油を輸出できるように希釈するために用いられる。PDVSA年金基金、バンコ・デ・ベネズエラ、ベネズエラ中央銀行はすでにかなりの額のベネズエラ国債を買い戻したという話もある。「高額納税者」の所得税は40%まで引き上げられる予定だそうだが、この「高額納税者」のカテゴリーはまだ厳密には定義されていない。

これらの決断のどれもがやっかいなものだ。だが、これらは誰であれ2016年後半や2017年前半に政権に就いている人が決断しなければならないことに比べれば、大したことない。ハイパーインフレに至る瀬戸際や、10月16日以降、おそらくPDVSA債権の厄介なデフォルト後のPDVSAの資産が外国で差し押さえられ、PDVSAの海外での業務遂行に大きな混乱が生じた状況で、決断する責任を負わされた者は、誰であれもっと大変な目に合う。

今日の政治状況において、これは全てすでに決まっていることだ。

事態は必ずしもこの通り進むわけではない、と考える人も中にはいるかもしれない。より分別のある人々が舵を取りさえすれば、異なる決断がなされるはずだ。そして彼らによって、少なくとも、私たちの前途に控えている困難のいくつかは避けられるはずだと。それは、ある程度は正しい。より良い指導者でも差し障りはない。政策の大失態は割合早く修正されるだろう。

だが、考え違いをしてはいけない。財政上、来るべき大きな景気後退は避けられず、これは野党を政権に据えたからといってたちまち変わるようなものではないのだ。

MUDの選択肢

MUDはここで戦略的に考える必要がある。ひとつめの選択肢は、MUDはマドゥロの追放を早め、おそらく勝利するであろう大統領選挙の実施を進めること。その道を進むというのは、「大転換」のエピソードを再び繰り返す*覚悟ができているということだ。変化を求めて投票する人々は、リベラルな市場モデルにおける「経済の健全さを取り戻す」ために投票したりしない。そうではなくて、人々は、石油の甘い汁が吸えなくなったことに対するやり場のない怒りをぶつけているのだ。

(訳注* 歴史的な不況の中、1989年カルロス・アンドレス・ペレス(CAP)が2度目に大統領に就任し、「大転換」と呼ばれる緊縮政策を行った。これは大反発を呼びカラカス暴動が起き、チャベスの台頭へと繋がった。この時、CAPはネオリベの権化として全責任を負わされるが、今日では、当時の経済危機ではCAPの経済政策以外にまともな対応策はなかったという見方をする人も多い。)

別の選択肢は、MUDは議会で好機の到来を待ち、PSUVが主導権を握る行政府に打撃を受けさせること。国民議会の過半数があれば、重要な改革案を通過させ行政府の権限を弱めることができる。これは現職議員にとっては非常に難しいことかもしれないが。これらの方策の中でも、特に、非公式な国庫資金*の管理については、政府が常に反対を表明してきた言葉にするのもはばかられるあらゆることを政府に執行を強制することができるはずだ。

(訳注* フォンデン、中国基金など内訳などの詳細が一切公開されていない基金を指している。)

中には、政治的な利点のために国が厳しいどん底状態に突き当たるのを進んで受け入れるのは、倫理的に非難すべきだと考える人もいるかもしれない。だが、これほど経済状況が悪いにもかかわらず、政府はなお12月6日の投票で、4割強の票を獲得したことを忘れてはならない。現在、政府は明らかに少数派だ。だが、それは政府派が完敗したというには程遠い。長期的に見ると、ベネズエラにとって一番必要なのは、統治哲学としてのチャベス主義の信頼性を今後三世代にわたり葬ることだ。早期に動くより、待っている方がこれを成し遂げられる可能性は高い。

受け入れがたいことではあるが、今は冷静に戦略を立てる時であって、「新たな多数派」というプロパガンダに酔いしれる時ではない。

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