
Photo by Tomomi Kaneko
9月1日、以前から予告されていた通り、ベネズエラで野党派の大規模な抗議運動がありました。このことは日本の主要なメディアはどこも伝えていました。
ただ、ツイッターでもいくつか質問を受けたのですが、そもそもこのデモは何のためにやってるの?と感じている人が多いようです。
マドゥロ大統領の罷免を求めるデモ、退陣を求めるデモ、でも少し前にも署名を集めていて、大統領退陣はできても政権交代は無理になったとか聞いたような聞いてないような…
実際には、このデモは単に人が集まったということ以上に、政治的にはテクニカルな意味をもつかなり重要なデモでした。
そこで、9月1日のデモの背景についてベネズエラの憲法という観点から説明します。
1. ベネズエラの憲法では、大統領の任期6年の後半期に罷免が可能である。ただし、任期4年を全うすると大統領が罷免されても新たな大統領選挙は行われず、副大統領が政権を継ぐ。
2. ベネズエラの憲法では、大統領の罷免には、国民投票で賛成多数になるだけではなく、その賛成票が大統領に当選したときの得票数を上回る必要がある。
3. 大統領罷免の国民投票の実施には、国民の20%が「罷免のための国民投票を求める」という意志を示した署名が必要である。
4. ベネズエラの選管CNEはこの手続きを妨害するため、新たに「罷免を求める国民投票実施の手続きを始めるためには、各州の1%の署名が必要」という新たなルールを作った。
ちなみに、CNEはこの時点で署名に必要な所定の用紙の準備をしぶっており、「署名用の用紙をくれ」というデモも起きていました。
5. このルールを受け、野党派は当初の各州1%を大幅に超える数の署名を集めた。ところがCNEは、次は指紋認証による署名の本人確認が必要だと発表。
そそもこのような手続きは憲法に記されておらず、すべてが罷免を遅らせるためのでっち上げだと言われています。
6. この指紋認証の機械が人里離れた場所(ジャングルの中など)に設置される、カラカスの中心部には設置されないなどの妨害行為もあったが、野党はこの本人確認の難関もクリアした。
7. これを受け、CNEはついに国民投票がどのように進むかの日程を発表した。ただし、この日程ではマドゥロの罷免は実現しても、政権交代に至らないことが明らかになった。
そもそもなぜ2016年が鍵となるのか?
マドゥロが当選したのは2013年。1.にある通り、来年1月10日以降に国民投票が行われた場合、マドゥロが罷免されても政権はチャベス派が維持することになります。政権与党PSUVはすでにマドゥロ退陣については合意済みと言われていますが、政権交代は避けたいところです。なので、手続きを遅らせ、国民投票を期限内に実施させない方向で動いているのです。マドゥロの罷免と政権交代に関して与野党の攻防の中心が2016年(年内実施か否か)になるのはこのためです。
8. 野党派は、CNEの日程発表を受けて、今回の大規模なデモを企画した。
で、このデモの意味は?
9月1日のデモの直接的な目的は、2.の国民投票の実施を求める署名集めのゴーサインをCNEにすぐにでも出させることです。この20%の署名集めの段階で、野党が20%(390万票)を大幅に超える署名、つまりマドゥロが大統領が当選したときの得票数(750万票)を超える署名を集めることができれば、この署名集めは実質的な国民投票の意味を持つからです。こうなると、いくら独裁的な政権とはいえ、マドゥロ政府は政権を維持することはできないと見られています。
今回のデモの動員数や盛り上がり、特に、長年チャベス政権を支持してきたハードコアなチャベス主義者層の現政権に対する怒りが露わになったことで、野党派には20%を大幅に超える署名を集めそのまま政権を打倒する、マドゥロを辞任に追い込むポテンシャルがあることが示されたのです。
#RevocacorioYAというのはそういうことです。2016年以降にベネズエラで起きている野党派による抗議運動はすべてこの文脈で読み解いていく必要があります。
追記
コメントで指摘がある通り、20%とマドゥロ得票数の数を一桁間違えていました。3900万→390万、7500万→750万です。記事内の間違いは訂正済みです。ご迷惑おかけしました。2016年9月5日
本来的な流れは、1ー>2ー>3なのですが、1ー>2−>Aということがありうるということなのでしょうかね・・・
1)各州の1%の署名 「罷免決定の国民投票の手続き進行」を要求 *指紋認証で本人確認が必要
これは完了したが、CNEに2)を急がせるために今回のデモを実施
2)国民の20%署名 「罷免決定の国民投票」を要求
A=>この署名段階でマドゥロ大統領当選時の7500万票を超えていれば実質的意味を持つ可能性
3)大統領罷免の国民投票の実施:大統領当選時の7500万票を超えていて、かつ1月10日以内ならば大統領罷免
しかし来年1月10日を超えてしまうと、同じ派閥の副大統領が新大統領となる可能性が強い
しかし、もともとありもしない1)をでっちあげ、さらに手続きを1月10日移行に遅らせようとじたばた小汚い手を使う現政権や選管CNEには呆れ果ててしまいますね。
いぎたない というしかないです。
しかし、今回の選挙は非常に注目しています。
よい形になるこを祈ります。
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少し、誤解のある書き方をしてしまいましたね。
本意的なあり方は、1→2→3→罷免の是非を決める国民投票の実施 です。1→2→3→A→大統領退陣 もありうるということです。
1、2、3は憲法にもともとあったものです。
選管がでっちあげたのは、4、5、6の過程です。いずれにせよ、こんなことがやっても許されるのか、という呆れるやり方です。
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最終段落
「でこのデモの意味は」に記載されている20%と当選時の獲得票数の桁が違うのでは無いででしょうか?人口や有権者数を大幅に上回ります。
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ご指摘ありがとうございます。
訂正しました。
自分ではてっきり750万だと思っていたので間違えていることに気づいていませんでした。
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