じわじわと広がる飢えの危機

現在ベネズエラでは、100日以上反政府デモが続き死傷者の数は増え続け、街には武装した治安部隊や武装集団が常にウロウロし、反政府派の「レジスタンス」により道路が封鎖され、先週末はマドゥロの新憲法制定に反対するため国会が行なった非公式の国民投票、それに続きベネズエラ全国で大規模なゼネスト、今月末には制憲議会議員選挙を控えるなど、未曾有の政治的混乱にあります。

これらの目に見える危機の背景にあり、人々の政府に対する怒りの根本にあるのが、飢えの問題です。

そして、飢えはベネズエラ国民が考えている以上に日々深刻化しています。

「ベネズエラで飢餓」はベネズエラ人でもピンとこない

ベネズエラを知る人や、ベネズエラで暮らしたことのある人は、この国が現在、アフリカのような食料危機に直面していると言われてもピンとこないかもしれません。ベネズエラはインフラもある程度整備されており、高層ビルが立ち並び、お金を出せば物はあるからです。

そのせいか、野党連合のMUDも拡大する飢えの問題に正面から取り組んでいるわけではありません。

ですが、事態はもはや単に食べ物が手に入りづらいという状況ではなくなっています。貧困層では飢餓の脅威が確実に迫っており、栄養不良の子どもたちの命、未来を脅かしているのです。

ベネズエラにおいて、この飢餓問題に最も積極的に取り組んでいるのが、カトリック教会の慈善団体、国際NGOのカリタス(Caritas)です。

ベネズエラはマジで飢餓の危機にある

2ヶ月ほど前、ある晩、夫がテラスで深刻な面持ちで誰かと電話で話していました。その相手が、カリタスを率いてベネズエラの飢餓問題に取り組むスサナ・ラファリでした。ラファリは、30年以上人道支援の分野で飢餓問題に取り組んできたエキスパートです。かつてオックスファムで、この「極度に感情的になりやすい問題」を、冷徹に定量化し、統計的に測定するという可能性を開いた一人でもあります。

その時の話を元に、夫がワシントンポスト紙のコラムに書いたのが、これです。

(ベネズエラで)彼女が見つけたもの衝撃的だった。カリタスは、ベネズエラの4州の中の、20以上のリスクが高い貧しい教区で、5歳未満の子どもの体重測定を始めた。この測定の目的は「全急性栄養不良」の割合を測定することだ。全急性栄養不良(GAM)とは人道支援の場で用いられる仕組みで、これにより深刻な饑餓が数値化される。10月には、調査したうち8.9%の中度の急性栄養不良子どもが中度または重度の急性栄養不良に直面していた。そのときすでに高い割合だったが、さらに上昇し続けている。4月になる頃には、リスクの高い地域で急性栄養不良になる子どもは11.4%に達していた。これは、人道支援団体が食糧危機だと言明する値の10%をはるかに超えるものだ。

そしてますます多くの世帯が、通常、戦争で荒廃した国における飢きんで見られるような、非常事態時の適応戦略をとっていることを、ラファリは発見する。報告では63%は「普通ではない食料」に救いを求めるようになっており、70%が人々が重要だと考える食べ物の消費をやめていた。さらにリスクの高い地域の85%の家庭が、食べる量が減っていると報告していた。リスクの高い地域の57%の世帯では、家族の誰かが、他の家族を食べさすために必要な食料摂取を控えており、44%は丸一日全く食事をしないことがあると報告した。全体としては、34%の家庭が緊急事態時の対処方法(急性の食料不足の兆候)に訴えるようになっていた。それは、例えば、食料を買うために生産的な資産のを売ったり、必要不可欠な支出を削ったり、ゴミ箱を漁ったり、子どもに物乞いをさせたり、食料の備蓄にかかる負担を減らすために家族のメンバーの誰かを別の場所で暮らさせるといったことだ。(…)

カリタスは、人々が食べている食料のバリエーションが狭まっていることも発見する。不足分の食料を埋め合わせるため、安価で栄養価の低い食べ物に依存するようになっているからだ。ほんの12月まで47%の世帯で卵を食べることができていたのが、今ではたった38%しか食べられなくなっている。昨年末には肉は41%の家庭で食事メニューに入っていたが、今ではそれがわずか33%に減少している。 マーガリンや食用油さえ、今では多くの家庭にとって手が出ないものとなっている。12月には64%の家庭がこれらをしようしていたが、今はそれが34%に減っている。家庭の食料保障調査によって明らかになったのは、人々は主な主食として塊茎を食べなければならない極端な状況に追い込まれているということだった。 熱帯のベネズエラでは、イモと果物が唯一、国による食品産業の略奪を免れた食べ物だからだ。イモ類が増えたことで、肉や卵、牛乳、野菜といった栄養価の高い食料の摂取は逆に減っていった。

ラファリに言わせれば、数字自体が雄弁に物語っている。どれほど地下に石油が眠っていようとも、中所得国というベネズエラのイメージは、もはや地上で家族が直面する現実とはかけ離れたものになっている。(…)

これは氷山の一角に過ぎない。他の国内の多くの地域も、同様に飢えている。現在の死亡率を下げ、子ども世代全体が発育不良に陥るのを防ぐために、ベネズエラは、本格的で持続的な人道的支援必要としている。だが、政府はこの現実を認めることを頑なに拒み、人道的非常事態を宣言することをあくまで拒否し、アメリカ合衆国を含む、世界中の国々が申し出ている支援を拒んでいる。

雨季が近づいているが、雨季には感染症が急増することから、ラファリは特に懸念している。栄養失調の子どもたちは、栄養に問題のない子どもの場合は何の問題もないような感染症にも勝てないことがよくあるからだ。

「もし10年前に、アフリカや南アジアの大災害の後にやっていた仕事を故郷に帰ってやることになると言われたら、絶対に信じられなかったと思う。」とラファリは話した。だが、これが今日のベネズエラの姿だ。

飢えは政府の政策のせいで起きている

ところで、先月、野村証券やゴールドマンサックスがベネズエラ国債を大幅な割引価格で購入したことで、怒ったベネズエラ人がこの2社に対してウォール・ストリートで抗議を行っていました。そこでのキーワードが「ハンガーボンド(飢餓ボンド)」でした。

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マンハッタンの野村証券の前で抗議を行う人々

外貨不足にあえぐベネズエラ政府ですが、政権維持には少しでも多くの外貨が不可欠です。国民が飢えに直面する中、外貨でデモ弾圧のための催涙弾など、武器を購入するマドゥロ政権を(間接的に)支援する企業に、批判が集まったのです。

さらに、ここで間違ってはならないのが、デモが沈静化してもベネズエラの飢餓の問題はなくならない、そして石油価格下落は問題の直接原因ではないということです。

ラファリ自身次のように述べています

「この[栄養失調]問題は石油価格が下落したせいで起きているというのは嘘です。エル・ニーニョによって作物の収穫高が激減したせいだというのも嘘です。 確かにこれらの問題は脅威として存在していましたが、政府による食料システムの不適切な統制こそが、このじわじわと起こり始めている危機の主な原因なのです。」

マドゥロ政権が続く限りベネズエラの飢えは深刻化する

今、マドゥロの一番の関心は新憲法を制定し、政権を維持することです。そして、この新憲法が目指しているのは、国によるさらなる管理、統制です。

中には、マドゥロ政府は食料不足対策として配給制度のCLAPを実施しているではないか?という人もいるかもしれませんが、CLAPの実態は、国家規模で行われている大掛かりな詐欺に他なりません

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CLAPはいらない!

先月半ば、ベネズエラの国会で国会議員カルロス・パパローニが公表した調査内容により、CLAPの販売には、ベネズエラ人実業家サマルク・ロペスベロの関与していることが明らかになりました。

ロペスベロとは、副大統領タレク・エルアイサミが、米、メキシコ、コロンビアなどに向けた麻薬密輸を首謀したとして米財務省から制裁を科された際、エルアイサミの窓口役として一緒に経済制裁を科された人物です。

CLAPで配られる食料はメキシコから送られて来るのですが、普通の市場の値段でメキシコで購入し普通に輸送すれば、1箱(15.5kg)12.44ドルの費用の物に対して、サマルクの会社では22.22ドルもの費用を計上しています。さらに、そこから様々な不明なコストが加わり、最終的に、この外貨不足の中、ベネズエラの納税者は1箱につき42ドル支払っているのです。ちなみに、サマルクはすでにこれを700万箱、政府に売っています。

このような状況を見るに、マドゥロ政府が現在の食料システムの統制をやめて適切で健全な経済活動を取り戻す可能性は皆無です。

政権交代しない限り、ベネズエラの人道危機問題は深刻化し続け、それにより国の未来を担う子どもたちを傷つけ、ベネズエラの将来に大きな禍根を残すでしょう。

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じわじわと広がる飢えの危機」への11件のフィードバック

  1. Nodaさん、どうやらベネズエラ軍や警察はかなりの恨みを買っているようです。休日にバーで飲んでいたベネズエラ軍国家警備隊の隊員2人とバーにいた他の客3人がバーの外に集まった複数人から無差別に銃撃されて蜂の巣になる事件が発生しました。隊員2人は即死か、虫の息のところを至近距離で必要以上に鉛飴をご馳走になっていたようです。恐ろしいことに新生児40人が病院の管理問題で死亡ました。市民は子供を学校に行かせる余裕が無い上に生きる為働かせています。麻薬がらみで逮捕される人も増えているようです。動物園から動物が盗まれました、食べ物がないから仕方ないそうです。マラリア、デング熱の患者も劇的に増えていて噂ではかなりの数のジフテリア患者までいるようです。おそらくよっぽどチャベス主義者で政権の恩恵がない限り耐え難い怒りを抑えることが出来ないでしょう。はて、ベネズエラ左派の理想郷はどこに行ったのでしょうか?少なくとも国民は理想郷を信じているように思えません。カルロスことイリイッチ・ラミレス・サンチェス氏に荒廃した故郷を見せるいい機会かもしれないですね。

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  2. こんにちは、Instagramでベネズエラの現状についての情報を拡散したいと思っていて、このサイトのURLをコメントに載せたいと思っておりコメントさせて頂きました。
    許可を頂きたいのですが、大丈夫でしょうか?

    お返事お待ちしております。

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  3. ベネズエラで起こっていることは、成長の限界です。ベネズエラの石油はEROIが低くて採掘は難しいですし、マドゥロの所為ではないですよ。食料の自給ができなければ日本もこんな風に崩壊する可能性が高いのです。私は日本も近いうちにこうなると思っています。

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    • ベネズエラで起きていることは成長の限界とはまったく無関係ですし、今のような状況になっている原因は食料自給ができないこと、というのは少し違います。現在ベネズエラがこのような苦境に立たされているのは、マドゥロの経済政策によるもので、石油の質のせいではありません。

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  4. ベネズエラの危機をもっと日本の人たちに知ってもらいたいです。もっと発信をお願いします!
    私自身、ベネズエラには知り合いも多く、安否が心配です。自然、人、美しくて大好きな国なので、とても残念です。

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  5. 日本では情報が少なく、わからなかったことです。今のベネズエラの状態のバックグラウンドが分かって、ありがとうございます(^_^)とても参考になりました。

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    • t. moritaさん
      コメントありがとうございます。
      ツイート用のシェアボタンが記事の下に出ていませんか?設定では出るようにしていて、私も出ているのを確認しているんですが…
      もしかしたら、何か不具合なのかもしれません。
      それでも無理なら、URLをコピペして、そのままツイッターの投稿にリンクを貼ることもできます。
      ぜひツイッターでシェアをお願いします。

      いいね

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